『世界の覇権が一気に変わる サイバー完全兵器』これは日本への警告だ。
本書が伝えるのは、危機感だ。
フェイスブックがサービスに同意した範囲以上に個人情報を不正取得していたことにより、CEOのマーク・ザッカーバーグが公聴会を開いたことは記憶に新しい。
しかし、公聴会での様子は、祖父母に対し、孫がWi-Fiについて一から教えているかのような見るに堪えないものだったという。
本書には、アメリカをはじめとした核兵器ならぬサイバー兵器についての最新の実情が語られる。
本書で語られる内容に、ザッカーバーグを相手にしたおっさん達同様、最初はポカンとした表情で耳を傾けていてもいい。
だが、ここで語られる事実は誰もが無関係でない、むしろ知っていなければならない内容が満載だ。
本書で具体的に紹介されているサイバー兵器先進国としては、中国、ロシア、北朝鮮が挙げられている。
中でもやはり目を見張るのは北朝鮮の事例だろう。
なぜなら、北朝鮮はこのサイバー兵器の利点を余すことなく利用している国だからだ。
2014年秋、北朝鮮はアメリカの大企業であるソニー・ピクチャーズのシステムに侵入し、ハッキングした。
当時のアメリカでは、この若干30歳程度のナルシストが支配する被害妄想国家がサイバー空間で懸念を引き起こすとは夢にも思っていなかった。
北朝鮮国内のIPアドレスの総数は、アメリカのニューヨークやボストンの一街区のIPアドレス数よりも少ない。
誰がこのような国からサイバー攻撃を仕掛けられると予想できただろう。
この騒動に、文字通りアメリカは完全にお手上げ状態だった。
サイバー兵器はまさに北朝鮮のような国のために作られた兵器だ。
極めて低コストであり、国家間の戦力差をかき消すほどの絶大な効果を有している。
北朝鮮は孤立しており、なおかつ燃料不足により大国と張り合う手段は他にはない。また、発展が遅いせいで、強力なサイバー兵器で反撃されてもマヒするインフラがそもそもない。北朝鮮のハッカーたちは、広大なネットワークインフラ環境がある中国、インド、マレーシア、ネパールなどでいまも息をひそめているという。
現在、世界で最も高度な技術をもったサイバー大国はアメリカである。
イランの地下核施設のシステムへ有害なコードを送り、ウラン濃縮に使う遠心分離機を制御不能にし爆発させたりと、依然として攻撃力では申し分ない力を有している。
しかし、アメリカを追う近隣諸国もまた着々と力をつけてきている。
こうした国々は、敵国を破壊することではなくて、困らせ、行動を遅らせ、体制を弱体化させ、国民に怒りと混乱をもたらす為にサイバー兵器を利用する。
戦争がおこる条件を満たさないギリギリの攻撃に、現代の戦場は増々複雑化してきている。
本書で語られるのは「大国間」の争いだ。
私たちには関係のない、国の行方を左右する権力者間で繰り広げられている内容に聞こえるかもしれない。
だが、ひょっとするとそれは私たちが日本という国にいるからなのかもしれない。
本書に日本はまったく出てこない。まさに蚊帳の外だ。
本書はそんな日本人に向けた警告書である。