『売り上げを減らそう。』営業わずか3時間半の飲食店が生んだ奇跡

店の名前は佰食屋。

京都の観光地から少し離れた住宅街にある、たった10坪、14席のお店である。

看板メニューはステーキ丼だ。

こだわり抜いたそのお肉は、肉本来のうまみや香ばしさが感じられる国産の交雑牛を使用し、ごはんとの相性がよく、丼いっぱい食べてももたれることはない。

お肉は、一日で使い切る分量しか仕入れないため、解凍されたお肉を提供することはなく常に新鮮だ。

 

そして、提供する料理もさることながら、本書はビジネス書としても一味違う。

ビジネス書というものは、多少なりとも広告的となりがちであるが、本書はそういったものを感じない。

働くことへの畏敬の念のようなものを感じさせる本である。

 

本書は、著者である中村朱美さんが語る自身の経営にまつわる話である。

佰食屋という名は、一日100食のみを限定販売し、売り切れとなれば営業時間が3時間足らずでも店じまいするお店の形態からきている。

ホリエモンこと堀江貴文さんは、著書の『まんがでわかる 絶対成功!ホリエモン式飲食店経営』の中で当店を以下のように紹介している。

サービスを極限まで絞ることで売上を上げているお店

 

そう、佰食屋はどれだけ儲かったとしても、「これ以上は売らない」「これ以上は働かない」とあらかじめ決めた経営方法を採用している。

だが、はたしてそのような経営で上手くいくのだろうか。

 

そもそも佰食屋は、開店当初は他の店と変わりのない普通の飲食店だった。

店の名前も、一日の売り上げ目標として、100食を目標としたのがその理由である。

もちろん、開店から今の経営スタイルに行き着くには様々な紆余曲折があった。

脳性まひのお子さんを生んだのもその一つだ。いまでも朝と夕方と寝る前の3回、毎日欠かさずリハビリが必要なのだという。

様々な過程の中で、お店にとって何を残し何を捨てるのかを中村さんは経営者として常に判断してきた。

1章ではまさに佰食屋の生い立ちが明かされている。この章だけでも十分すぎるくらいな内容となっている。

 

中村さんは、日経WOMANウーマン・オブ・ザ・イヤー2019など、経営者として数多くの賞を受賞されている方でもある。

しかし、経営者としての考えはとてもシンプルだ。

例えば、「頑張れという言葉を使うのではなくて、仕組みで人を幸せにしたい」というのも1つだ。

そのために実践しているが、どうしても1人少ないときは、1日分の目標売上を減らすということ。

通常であれば、経営者が休んだ人の分もカバーするように他の従業員にお願いするものだが、それだとどうしても休みづらい雰囲気が生まれてしまう。

休んだ人の分1日の売り上げ目標を減らしてしまうことで、従業員に「頑張れ」という必要もなくなり、休みやすい職場環境が生まれるのだ。

 

「早く帰れる」

「年休が取れる」

「向いていない仕事は他の人がやる」

 

こうなると甘い制度につけ込んで乱用する社員も出てきておかしくない。

だが中村さんは、その点についてもよく考えぬいている。

以下、少し長くなるが引用する。

「残業ゼロ」「有休完全取得」といったところばかりに目を向けて「僕も働きたいんです」と、大学生から志望されることもあります。けれどもはじめから佰食屋に来てしまうと、この環境は生ぬるく感じられてしまうでしょう。佰食屋の環境が当たり前と思ってしまえば、もしほかの企業へ転職したとき、あまりの落差にきっと疲弊してしまう。それは本人にとってもよくないことです。

 

 

この言葉に、中村さんは実はとても厳しい方なんだとも思いました。

誰を採用するかの答えはシンプルで、「働くことへの尊さ」をわかっている人たちを採用するだけだ。

 

今の時代働き方はますます多様化・複雑化してきている。

だが、昨今の経営は、そろそろ当社としてもテレワークを導入しなければというように、流れに任せるだけの経営になってはいないだろうか。

自分の会社に何が必要なのかは、やはり現場をつぶさにみて回るしかない。

佰食屋の経営は、そんな現場で起こる小さな変化に焦点を当て、改善していくことで生まれた奇跡である。

 

売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放(ライツ社)

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