『スマートマシンはこうして思考する』全てのビジネスマン必読のAI本

これまで一体いくつAI(人工知能)あるいは機械学習に関する本を手にしてきただろう。

それにもかかわらず、AIとは?機械学習とは?と聞かれても、十分な説明もできずにいた。

これは、多くの人にとっても同様ではないだろうか。

人間の思考とAIの思考はどう違うのか。

AI研究はどのように進歩し、どんなブレイクスルーがあったのか。

本書は、そうした疑問に対して、まるでAIの構築の工程をあたかも擬似体験するように読者を誘導し、複雑なAI技術の理解へ確実に導いてくれる、まさに「こんな本が欲しかった!」と読者を唸らせる良書である。

 

AI(人工知能)とは、本書の言葉を借りれば、コンピュータに知的な思考を行わせることを目的とした包括的な学問分野のことである。

コンピュータの思考方法は人間とは大きく異なっており、AIとは、コンピュータにどうすれば知的な思考をさせられるか、その方法を突き詰めていく学問とも言える。

それは、自動運転車でいえば、自動運転車を道路から外れさせずいかに街中を巧みに走らせるかを突き詰めることであるし、

映画をレコメンドするシステムを構築したければ、カスタマーの趣味嗜好を組み取り、いかにおすすめの映画というかたちで結果に反映させるかを突き詰めることをあらわす。

 

本書では、上記以外にも、音声認識から、ワトソン、アルファ碁、スタークラフト、ボットまであらゆる人工知能が登場する。

どれも難しい数学的な話はできるだけ触れずに大事な概念を丁寧に説明してくれている。

と言っても、本書の内容はお世辞にも簡単とは言えないのだが、裏を返せば幅広い読者を満足させるだけの本物の知識が書かれている。

 

さて、本書でまず最初に紹介されるAI(人工知能)は自動運転車である。

自動運転車の説明は2章に分かれている。

手始めとして、2004年にモハーベ砂漠で開催された100万ドルをかけた自動運転車によるレースが紹介される。

後続の章では、実際に人間のドライバーも想定した都市環境の中で自動運転車を走らせる取り組みを取上げている。

皆さんは機械学習ニューラルネットワークといった言葉はご存知であろうが、上記の時点では、まだそうした手法は生まれてはいなかったか、あるいは未熟であった。

本章では、機械学習等が生まれる前、どのようにして自動運転車に世界を認識させ、思考させていたかについて書かれている。

詳細は本書に譲るが、自動運転車の設計はハードウェア層、認識層、計画層(思考層)という3つの層に編成することで大きな成功を収めた。

これにより高次元の思考を司る計画層は低レベルのセンサーによるデータに惑わされることなく、かつ、自らの状態(物理学の法則に反した方向転換や加速。車は車輪が向いている方向しか進めない)を無視した無茶な計画を行うことはしない。

本章には、他にも「有限状態マシン」という重要な概念が説明されている。

 

続いて、次のトピックも大変興味深い。

2006年にNetflixがおこなったあるコンテストを取り上げ、映画のレコメンデーションシステムの解説を試みている。

著者によれば、本章はAIに関する内容を解説するに至っては特筆すべき内容ではないと言っているが、ここで取り上げる分類器に関する内容については、後続の章を理解するためには非常に重要なものとなっている。

個人の趣味嗜好は実に多彩である。

だが、本章で説明されている行列因子分解という手法を使うことで、映画とユーザーをそれぞれいくつかの数字で単純化することができ、分類器による振るいにかけることが可能となる。

この手法は、何かを人に勧めるにあたっては「最善な」手法として威力を発揮している。

 

そして、その後に機械学習ニューラルネットワークについての解説に入っていくわけであるが、先述の内容を読んできた読者であれば十分に理解できる内容となっている。

コンピュータが世界を認識し複雑な思考をしていく様は、けっして魔法でも神秘でもなくて、ずっとおもしろくて凄いものなのだと実感してもらえるはずだ。

 

ここまでざっと本書の内容を説明してきたが、1つ言えるのは、本書を読めばAIについての理解やイメージが大きく変わるということだ。

本書は、これまでブラックボックスと呼ばれていたAIの思考過程を広く一般の読者が理解できるよう解説したものである。

著者が言うように、本書を読むのに必要なものは「好奇心と、少しの集中力」だけだ。

是非この夏休み期間に多くの方に時間をかけて熟読していただきたい一冊である。