『移民が導く日本の未来』

コロナショックで露呈したのは、日本の人材不足による、レジリエンス(復元力、危機対応能力)の低さである。

日本はその特異な地形ゆえ、自然災害が多い国であるため、危機に対する認識・準備が最も備わっていて然るべき国のはずであるが、実際は、検査官や看護師不足でPCR検査の導入はろくに進まず、また国民全員に配ると断言したマスクに至っては数か月立っても十分に供給することすらできなかった。

共働きや定年退職年齢の引き上げにより、日本は高齢者と女性の就労率が世界でもトップクラスとなる中、コロナショックはまさに日本国中が一億総活躍で働き疲弊している最中に起こった災害なのである。

 

少子高齢化というテーマは、すでに日本にいれば誰しもが素通りできない問題となっているため、関係本は巷に多数存在するが、本書もそんな中の一冊である。

わたしも数多くそのような本を手に取ってきたが、本書は、新たに知る事実が満載で付箋だらけとなってしまった。

例えば、以下のような内容だ。

 

・2014年の「まち・ひと・しごと創生法(地方創生法)」の制定にあたり、国が各地方自治体に求めた人口増加に向けた施策では、到底実現不可能な絵空事でいっぱいとなっている。

・政府が外国人の魅力的な受け入れ政策を用意しようがしまいが、日本に在留する外国人は増え続けており、このままでは違法外国人ばかりとなってしまう。

・日本にいる外国人への日本語教育は、約8割強がボランティアか非常勤教師で賄われている。

 

上記のどれか一つでも興味を持ったのであれば、本書は手に取っておくべきである。

 

一見、政府が何もしなくても日本に在留する外国人が増え続けてしまうのは、人口減少という観点からすれば、良いことのようにも思える。

しかし、これまで30年程度本格的な政策の見直しがされてこなかった外国人受け入れ政策は、悪用され大きな負の遺産を作ってしまった。

それは、人手不足が深刻化するブルーカラーの産業で、留学生を労働力として利用すること、そして国際貢献を建前とする技能実習生に依存してきた体質が原因である。

まず、コンビニで見かける外国人の多くが、留学生たちだ。

大学、専門学校、日本語学校など様々な学校に在学する留学生は、週28時間という決められた制約の中で働くことが認められている。

しかし、この制度があることで、教育よりも働くことを目的とした入国が増加し、複数のアルバイトを掛け持ちすることで28時間を超えて働く違法留学生が多くなってしまった。

 

また、技能実習制度では、外国人労働者を低賃金で雇い、使い捨てにする企業を多く産んだ。

そもそも技能実習制度とは、途上国の人々が来日して日本の進んだ産業に従事することで、学んだ知識を母国の発展に役立てることが目的の国際協力の仕組みである。

そして、この技能実習制度については、人手不足の解消を目的としてはならないとはっきりと法律でも明示されている。

だが実際は、特に日本のモノづくりを支えてきた地方の企業を中心に、人手不足への苦肉の策として、労働力を確保するための手段として利用されているケースが圧倒的に多い。

また、本書によれば、この制度はもともと善人であった経営者を悪人に変えてしまうという。

 

技能実習制度の目に見えない大きな問題は、正当な給料を払ってきた真っ当な企業が、最低賃金しか払わなくて済む技能実習制度にどっぷりつかってしまい、低賃金に依存する途上国型の企業へと劣化していくことである。技能実習生を雇い続けるといつしか低賃金に依存する体質となり、もはや日本人に通常の給料を払うのができない経営状況に陥ってしまうのだ。

 

 

人手不足が深刻化すれば、今以上に労働力を求めた企業による外国人の受け入れが増加するだろう。

そのためにも、早急な受け入れ政策の実現が必要なのである。

 

コロナショックの発生する1年前、政府はすでに実質的な移民受入れにつながる可能性を持つ方向転換として、出入国管理法の改正を行った。

これにより、これまで技能実習生が行ってきた現場労働の分野で初めて「就労」を目的として新しい在留資格が創設されることになった。

しかし、この改正についても、筆者からすれば、学歴の要件を求めていないなど、課題が多いものとなっている。

人口減少が甚だしいといっても誰でも受け入れて良いわけではなく、どのような人材に定住を認めるかは極めて重要なのだ。

本書によれば、技能実習生への過酷な労働は、すでに世界でもKAROSHI(過労死)という言葉が広まる等、高度人材の人々の中にはすでに日本で働くことを嫌がる人材も存在するという。

また、少子高齢化は日本だけが抱える問題ではなく、他の先進国でも同じ悩みを抱える国は多くなっており、優秀な外国人労働者をいかに確保するかが大きな課題となっている。

 

本書を読んで感じたのは、日本が世界から選ばれる日が来るのはまだまだ遠いということだ。

しかし、コロナショックが終われば、日本は人口減少という大きな課題を抱えて再出発しなければならないことは自明である。

是非とも、本書を読んでそうした課題に多くの人たちが向き合ってほしいと思う。