『Learn or Die 死ぬ気で学べ』

現在、日本で唯一のユニコーン企業として知られているプリファード・ネットワークス(以下、PFN)という会社をご存知だろうか。

ユニコーン企業とは、企業価値時価評価額が10億ドル(約1,065億円)以上の非上場企業のことを言う。

本書では、この謎の集団とも呼ばれたPFNについて、同社の代表取締役社長である西川徹氏と副社長の岡野原大輔氏が満を持して、その組織の真髄や手掛けている事業、今後の展望まで、余すことなく語り尽くす。

 

ここでPFNについて簡単におさらいしておこう。

なお、PFNについては、すでにネット上では数多くの関連記事が挙げられ、その道の専門家が詳しい分析を行なっているため、詳しく知りたい方はそちらを読むことをお勧めする。

 

PFNのスタートは、その前身ともいえるプリファード・インフラストラクチャー(以下、PFI)が設立された 2006年にまで遡る。

PFIは、当時東京大学大学院に在学していた西川徹氏や岡野原大輔氏ら、東京大学京都大学の6人の学生によって設立された。

その後、2014年にこのPFIからスピンアウトし、ディープラーニングを活用したソフトウェアの研究開発を推進する目的で新たにPFNを立ち上げた。

PFIの立ち上げメンバーは全員が技術者であり、その中には2006年のACM国際大学対抗プログラミングコンテストに出場したメンバーも含まれていることから、PFNはPFI時代から優れた技術者集団だと認知されていた。

また、設立時から一貫して「他社からの受託案件を一切請けず、自社開発に注力」するという方針を崩さなかった。

下請けではなく、共同開発という形で他社と手を結び、高いレベルで研究開発に取り組める案件だけを受けてきたという。

今では、NTTやトヨタファナックDeNAをはじめ、日本だけではなくアメリカの企業ともパートナーシップを結ぶなど、その活動は多岐にわたっている。

さらには、博報堂DYホールディングス日立製作所みずほ銀行三井物産中外製薬東京エレクトロンなど、多くの会社から出資を受けており、今後も目が離せないスタートアップ企業である。

 

といった具合に、まさに破格の勢いで成長を遂げてきたPFNという企業から、はたして我々が学べることがあるだろうか。

私が思うに、PFNの哲学は、同じ企業という目線というよりも、一人の人間の生き方として気づきを与えてくれると思う。

 

例えば、”Learn or Die(死ぬ気で学べ)”という行動規範は、PFNの代名詞とも呼べるもので、私も一番気に入っているものだ。

 

我々の最大の価値は人やチームにある。人やチームが持っている知識やノウハウ、物事を実行できる能力こそが競争力だ。知識は資産のようにストックできるものではない。常に新しい情報を取り入れ続け、改善し続けなければならない。

 

知識はストックできない、だからこそ学び続けることが重要である。

これは、技術の世界では新しいことを常に学んでいかなければあっという間に取り残されてしまうという危機感から端を発しているのだろうが、技術屋に限った話ではないはずだ。

この言葉は、私にとても勇気を与えてくれる。

東大卒だろうが、医学部卒だろうが、そこで努力をやめてしまえば、それなりの結果しか得られないのだ。

確かに生まれ持った差はあるかもしれないが、貪欲に学び続けることの重要さを教えてくれる。

 

そして、もう1つ、上述した「他社からの受託案件を一切請けず、自社開発に注力」といった姿勢にもつながる行動規範として、"Motivation-Driven(熱意を元に)"という行動規範を紹介しよう。

 

我々が考えるモチベーションとは、この3番目のレイヤーだ。自分たちが「これが大事だ」と思えることで目標を達成する。そういう気持ちを持てるような仕事をしようという意味でもある。外部から「これをやってください」と言われてこなすようでは、期待を超える成果は出せない。求められ、決められた仕様に基づいて作るだけで終わってしまう。

 

一見、この行動規範は、やりたいことだけをやればいいと謳っているようにも聞こえるが、実はそうではない。

ここでいう自己実現というのは3番目のモチベーションで、1番目はサバイバル、2番目は報酬と罰というモチベーションの段階がある。

1番目、2番目は外部に評価軸があるが、3番目は自分の中に価値基準が存在し、自分の考えをもとに判断を下してよい。

PFNでは3番目のモチベーションをいかに高められるかに重きを置いていて、こうした高いモチベーションを持てる社内環境を作ることを目指している。

あなたがもしマネジャーという立場であるならば、こうした社員のモチベーションに合わせたフォローを考えてみるもいいかもしれない。

 

また、本書の見所としては、第5章の岡野原氏による深層学習の説明だ。

さすが論文オタクというだけあって、どのAI本の解説よりも非常にわかりやすく書かれている。

私が本書を読むにあたって、一番付箋をつけたところでもある。

ここを読むだけでも本書を手に取る意味は大いにあると言える。

 

本書を手に取るまでは、PFNの存在は知らなかった。

それが、パーソナルロボットを実現するだとか、500年後も生きて次の時代を見たいだとか、そんな大そうな夢を語る日本企業がいることは驚きであった。

しかし、本書を読んでそのような未来が本当に実現するのではないかと胸を膨らませてしまった。

ぜひ多くの方に手に取ってもらい、同じ期待を抱いて欲しいと思う。