『トポロジカル物質とは何か』
「トポロジー」とは、物に切れ目を入れたり穴をうめたりせずに連続的に形を変えたときに、変形の前後で変わらない性質のことを言う。
さて、このように説明されてすぐに理解できる人が世の中にどれくらいいるだろうか。
本書は、この「トポロジー」という難解な性質を持った物質、その名もトポロジカル物質について書かれた本である。
だが、身構える必要はない。
本書は、トポロジカル物質をはじめ、物質が持つ脅威的な性質について、わかりやすく魅力的に語られた本と言った方が適切であるからだ。
世の中の物質には神秘が溢れている。
私たちが日々何気なしに使っているパソコンでさえ、人類の叡智が詰まっていることは言うまでもないだろう。
皆さんは、このパソコンが生まれるまでに、一体いくつもの発見や発明が積み上げられてきたか想像できるだろうか?
その発見や発明の多くがノーベル賞を受賞してきた。
「巨人の肩の上に立つ」というのは、こうした科学発明の連鎖を示して使われた、ニュートンの言葉だ。
トポロジカル物質を理解するには、この連鎖を理解しなければならないわけだが、
本書はたった100ページほどで、数式や物理を理解していない読者を、わかったような気にさせてくれる魔法のような本だ。
それでは、さっそく皆さんにも魔法の一端をお見せしよう。
先ほどパソコンを引き合いに出したが、パソコンのような情報機器になくてはならないのが、「トランジスター」である。
トランジスターとは、電圧や電流の微弱な変化を、大きな変化に拡大するデバイスのことだ。
このトランジスターのおかげで、電流を流したり電流を切ったりする、いわゆるスイッチ作用が容易となり、コンピュータは脅威的な速さで計算することが可能となっている。
では、私たちが使うパソコンの中に、一体いくつのトランジスターがあるか想像できるだろうか?
3000メートルを越す富士山を1センチメートル四方のフィルムに記憶できる写真技術を思い出せばいいでしょう。ただ、集積回路で使われる写真技術は、普通の写真よりはるかに高精細な写真なのです。例えて言うのなら、富士山全体の写真を撮ったとき、登山道を登っている登山者一人ひとりの顔まで写っているほど、高繊細な写真技術を利用して、その写真に集積回路を縮小して写し込みます。
少々長い引用になったが、数字で語られるよりも、はるかにわかりやすいはずだ。
超物質の世界は、非常にミクロであるか、逆にとんでもなく大きい対象を扱うことが多い。
専門家ではない私たちには想像できるということが大切なのだ。
もう1つ紹介しよう。
それは超伝導体と呼ばれる物質だ。
超伝導体とは、電流が電気抵抗ゼロで流れる物質で、電圧をかけなくても電流が流れる。
これだけだとピンとこない方もいるかと思うので、補足すると、例えば、パソコンやスマートフォンをしばらく使っていると、
誰でも本体が熱くなっていることに気づくことがあるはずだ。
これは、パソコンやスマートフォンに流れる電流が、電気抵抗を受けて発生するジュール熱である。
要は、抵抗を受けて消費してしまう、エネルギーの損失のことだ。
超伝導体は、この電気抵抗が全くないので、電流を流してもジュール熱が全く発生しない、まさに夢のテクノロジーなのだ。
しかし、この超伝導は、マイナス何百度という極限状態でしか実現ができないとされている。
現在は、室温でも実現できないか研究が進められており、トポロジカル物質は、この研究にも大きな功績を残すと言われている。
本書には、この超伝導体についても詳しく説明されている
さて、トポロジカル物質にも少し触れようと思ったが、本書の前半に書かれている内容に終始してしまった。
もちろん、これでも紹介できたのはまだまだ一部でしかない。
本書の前半だけでも、引用したい文章や、興味深い知識がこれでもかと詰め込まれている。
しかし、それでもメインディッシュは後半のトポロジカル物質の内容というのが、もう驚きでしかない。
こんなに紹介したい内容が満載な本は他にないと思う。ぜひ手に取って読んでほしい。