『ほんのちょっと当事者』本書を読んで今年を振り返るもよし!

ローン地獄、児童虐待、性暴力、障害者差別、看取り、親との葛藤…
人生には、その人の人生を左右させてしまうような、大きな問題ごとが数多く存在します。筆者はこうした問題ごとを「大文字の困りごと」と呼んでいます。

 

本書は、そうした人生の「大文字の困りごと」に対する、時代背景や筆者の体験談も含めた赤裸々な内容が記されたエッセイです。
本書がオススメなのは「ほんのちょっと」当事者という点です。
先述の通り、取り扱う問題は決して生易しいものではありません。
本書では、あくまでも筆者がちょっと当事者として関わったという内容になっていますので(と言ってもエグいものもあります)、本物の当事者の話よりは、フラットで笑い飛ばせて、かつ、誰にでも思い当たり適度に考えさせられるような内容になっています。

 

じゃあ、自己破産しますっ

 

という一言が登場するのは、本書の第一章です。
借金やローン地獄というのは、よっぽどのギャンブル好きか、はたまた悪質業者とでも関った人間の話で、一見、私たちとは無縁のように思える問題です。
しかし、筆者が陥ったのは、我々にも身近なクレジットカード決済という魔の手でした。
筆者が、新卒として入社した1993年は、ちょうどバブル景気後退期です。この時期は、多額の不良債権、いわゆる融資の焦げ付きを抱えてどこの銀行も必死でした。クレジットカードへの加入も各銀行員に課せられたノルマでした。
筆者はそんなクレジットカードの爆発的な普及時、新卒として世の中の右も左も分からない頃に、銀行のうまい口車に乗せられて、自己破産の一歩手前までいってしまったというわけです。

借入先が大手の銀行だからというのは安心感があります。
というのは甘い話で、裏ではそうではありません。
クレジットカードに隠されたカラクリは、皆さんにもぜひ本書を読んで知っていただきたい。

 

もう一つ、同様の思いをされた方も多いかなと思い紹介します。

いわゆる非正規労働者問題についてです。
2004年の小泉内閣時代、「構造改革」の名の下で製造業への派遣が解禁されたことで、非正規労働者が増加し、そのことが「働いているのに貧困」、いわゆる「ワーキングプア」という社会問題を生み出しました。

しかし、世の中にはその派遣社員にすらなることができない人たちもいます。筆者もまさしくその一人です。
新卒で入社したアパレルメーカーを退社後、かれこれ20年近くフリーライターとして働いてきた筆者ですが、一度、派遣登録をしようと思ったことがあるようです。
登録しようと思い、開いた人材派遣会社のHPページでは、まず自身の「スキル」をアピールする自己プロフィールを登録する必要があります。
長年、フリーライターとして働いてきた筆者は、当然、ExcelPowerPointのスキルは皆無に等しく、ひたすら埋めることのない自己プロフィール登録画面は自身の無能さを思い知らされるだけのものでした。
その後、受けた面談では、人材派遣会社に勤める自分よりずっと年若の女性の前で更なる無能さを露呈し、結局は派遣登録を辞退することに。
当然、そうした「スキル」として現せられないその人の「良さ」というものはあるはず!と言う方もいらっしゃるかと思いますが、現実はそうした思いを汲み取るようにはなっていないようです。

 

厚生労働省は、来年4月の「同一労働同一賃金」の制度が始まるのに合わせ、派遣社員についても、同じ業務で3年の経験を積んで業務内容が変われば、初年度より賃金を3割上げるなどの方針を発表した。
このように、世の中は良くなっているように見えますが、実際はそうではないのかもしれません。
それは「当事者」になってみないとわからないことだと思います。
世の中は働き方改革一色ですが、私たちに本当に必要なのはこうした社会問題に対して、ほんのちょっと当事者になることで、世の中をよく知ることではないでしょうか。
私のようなサラリーマンでも、明日は我が身です。
本書を読み、そうした「大文字の困りごと」に対して、ちょっとだけ当事者になってみることで、その問題に関心を持ち知っておくことは大事だなと痛感しました。

 

ほんのちょっと当事者

ほんのちょっと当事者

  • 作者:青山ゆみこ
  • 出版社/メーカー: ミシマ社
  • 発売日: 2019/11/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)