『新型コロナウイルスを制圧する』新型コロナに関する待望の一冊

現在、新型コロナウイルスは第2波とも呼べる猛威を奮っている。

そんな中、待望とも呼べる一冊が発行された。

それが本書『新型コロナウイルスを制圧する』である。

本書は、そんな新型コロナに対する著者の疑問を東京大学医科学研究所の河岡義裕教授へぶつけるかたちで書かれたものだ。

数十分毎に更新されるネットのニュースやテレビの情報は、不確かなものも多くいつまで経っても私たちの不安を拭ってくれはしないだろう。

私たちに今最も必要なのは長年培われた冷静な知見による確かな情報ではないだろうか。

本書にはそれが書かれている。

 

河岡教授はまさに新型コロナウイルスの研究を最前線で行っている。

インフルエンザワクチンを人工的に作る技術を世界で初めて開発、エボラウイルスの人工合成をしたワクチンの臨床研究等、ウイルス学の世界的な権威として知られている。

そして、聞き手を務めるのは、『選べなかった生命 出生前診断の誤診で生まれた子』で数々の賞を受賞した河合香織さんだ。

「ワクチンはいつ実用化されるか?」「これからも流行を繰り返すのか」「新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスはどう違う?」など、読者の聞きたいことを余すことなく質問してくれている。

 

本書の素晴らしさは説明がとても分かりやすいという点だ。

新型コロナウイルスは一時中国で人工的に作られたものが流出したという噂も流れた。

これに対し、河岡教授はその可能性は低いと否定する。

 

そもそも、ウイルスの病原性を高めるのはとても難しい作業です。なぜなら、今存在しているウイルスは、その環境に最も適したものが選ばれているからです。そのウイルスを、たとえば人に感染するようなウイルスに改変するのは、ほぼ不可能です。

 

河岡教授は、ウイルスを人工合成する「リバース・ジェネティクス」という技術でインフルエンザウイルスを人工的に作成することに成功した。

この「リバース・ジェネティクス」という技術を使えば、ウイルスを強化したり、1から作ってしまうこともできてしまえそうだ。

しかし、先ほど引用した河岡教授の言葉にもある通り、ウイルスというのは、すでにそれ自体がとても良い「バランス」で完成されている。

そのバランスを崩して、弱毒化するのは簡単であるが、つまり弱毒化した上で人体に打つことでワクチンとして利用することも可能であるが、もっとより良いものに設計するのは困難であるという。

ここで言う「良い」というのは、よく増えるという意味だ。

ウイルスとは自然が生み出した奇跡なのである。

この説明は非常に分かり易かった。

 

そんな本書の前段で多くのページを割いているのが新型コロナのワクチンがいつできるのかである。

ワクチンの実用化に向けては、河岡教授は慎重な姿勢だ。

 

WHOはワクチンの開発までに12ヶ月から18ヶ月を想定していると言っています。すべてがうまくいくと、可能かもしれません。しかし、拙速な実用化は弊害も大きく、望ましくないと考えています。

 

本書では、ワクチンの種類や作用するメカニズムについても詳細な説明がされている。

ワクチンの種類には、生ワクチン、不活性化ワクチン、サブユニットワクチン、遺伝子ワクチンといった4つもの種類があることを本書を読んで初めて知った。

その中でも近年注目されている、遺伝子ワクチンー病原体を複製するメッセンジャーRNAやDNAの断片を直接体内に注入するワクチンーは、これまでのワクチンよりも格段に開発スピードが早く、アメリカでは新型コロナワクチンの設計からわずか42日で臨床試験に入り、すでに人にも投与されているそうだ。

河岡教授は、この遺伝子ワクチンに加え、従来型の生ワクチン、不活性化ワクチン、サブユニットワクチンの3つのワクチンの研究も進めており、1日でも早いワクチンの実用化に向けて尽力している。

 

私は普段からテレビは全く見ない。

ネットのニュースくらいは読んでいるのだが、毎日スマホにポップアップ通知されるコロナ関係のニュースに内心うんざりしていた。

また、ネットの情報はどうしても細切れとなってしまうため、まとまった情報が得られるものが欲しかった。

そんな中、本書はまさに私の知りたかったことが満載で、水を得た魚のように5、6時間で一気に読み切ってしまった。

私と似たような境遇の方も多いことだろう。そんな方には真っ先に手に取って欲しい本である。