『地磁気の逆転』

多くの人は地球が大きな棒磁石のようになっていることを知っている。南極から放出された磁力線は、赤道の上空を通過して、北極へと降り注いでいる。このおかげで、昔の船乗り達は大海原に繰り出し目的の大地に向かうことができた。しかし、地球の磁極が地球誕生から現在までに幾度となく逆転(N極とS極が逆転する)しているという事実を知っているものは少ない。本書は、そんな磁極逆転という自然の不可解な現象に挑んだ科学者たちの物語を機知に富んだ語り口で紹介する、今年一番のサイエンスノンフィクションだ。

 

磁極が逆転するとはどういうことか―。

その話をする前に、まずは地球がなぜ今のような磁場を築いているのかを考えてみよう。

 

地球の中心である内核(コア)は、地球が生まれた時の名残で非常に高温な溶解炉となっている。その高温は内核をつつむ外核(鉄、ニッケルなどで構成される)を融解させ液体状にしている。液状の外核の対流が電流を発生させ、さらには磁場を生み出している。生み出された磁場が棒磁石のようなキレイな二つの磁極(双極子磁場と呼ばれる)になっているのは、地球が自転しているからだ。自転によって、バラバラな磁力線が一つに束ねられ、私たちがよく知る地球の磁場となっているというわけだ。

 

しかし、本書ではこの一つに束ねられた磁力線とは逆向きに働く力が存在しているという。さらにはこの逆向きの勢力により磁場がほとんど消滅しているところもあり、本書によれば、それは「南太平洋磁気異常帯」と呼ばれる領域で、実際、人工衛星がこの磁場の弱い領域の上空を通過している最中にメモリ障害が発生したという。

 

それでは、地球の磁場が完全に逆転するようなことがあれば、私たちにどのような影響を与えるのだろうか。

地球の磁場は、地球を取り囲むシールドのような役割を果たしており、宇宙から降り注ぐ有害な宇宙線から地球を守っている。かつて火星にも地球のような磁場が存在したという。しかし、磁場が消滅し、自らを守るすべを失った火星は、強力な太陽風にさらされた結果、現在のように岩石だけの星に成り果てた。磁極が逆転する際、磁場が弱まりほとんど消滅に近い状態となることがわかっている。その時、自らを守るすべを失った人類は無事でいられるのだろうか。

 

ここまで読んだ読者には、磁場が消滅した際に、宇宙線が人類の築いた電磁気インフラに及ぼす影響についても心配するだろう。一番最後に起きた磁極逆転は、78万年前に起こったとされており、その時はまだ人類は誕生していなかった。本書では、こうした未来が現実になった時に我々はどうすべきなのかについても触れている。

 

本書は、物理学でいうところの「場」の概念の面白さが存分に味わえる一冊でもある。私たちには何もないと思えるような空間でも、空気や磁場、電波といったもので満たされている。見えないものを想像し楽しむ。これこそサイエンスノンフィクションの一番の面白さと言えるのではないだろうか。本書はそんな面白さを存分に味わせてくれる一冊だ。

 

 

地磁気の逆転 地球最大の謎に挑んだ科学者たち、そして何が起こるのか

地磁気の逆転 地球最大の謎に挑んだ科学者たち、そして何が起こるのか

  • 作者: アランナ・ミッチェル,熊谷玲美
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/02/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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