『クリーンミート』人工培養によるステーキ誕生まで秒読み？！

2013年、ロンドンで世にも奇妙な試食会が行われた。

そこで振る舞われたのは、牛の幹細胞をシャーレで培養して人工的に製造された「人工肉」を使ったハンバーガーだ。

試食会の参加者は「肉のジューシーさは無いが、食感は完璧だ」、「脂肪分がなく赤身の肉という感じだが、普通のハンバーガーを食べているようだ」と感想を語った。

この人工肉ハンバーガーを作ったのは、オランダ・マーストリヒト大学教授のマーク・ポスト医学博士である。

試食会で出されたハンバーガー1個の値段は、研究費込みでなんと約33万ドル（理由は本書を読んでほしい）。

ポスト博士はその後のインタビューにおいて、今後研究を重ねていき、ハンバーガーの値段を市場に出回るハンバーガー以下の値段にすると意気込んだ。

本書はこの人工培養肉について書かれた本である。

人工培養肉は、現在では、クリーンミートと呼ばれている。

そう呼ばれている所以は、クリーンミートこそ、動物の体内で育てられる従来の食肉とは異なり、成長ホルモン、農薬、大腸菌、食品添加物に汚染されていない最も「純粋な」食肉であるからだ。

他にも、動物を飼育する必要がなくなるため、育てるために要していた多くの資源を節減することができて環境にも良い。

本書では、先述した人工肉ハンバーガー誕生の舞台裏から始まり、培養肉の最新動向まで、盛り沢山の内容となっている。

クリーンミートは今後10年か20年で、牛や鶏を飼育するよりも安く、大量に生産されるようになるだろう。ステーキが食べたくなったら、牛を１頭丸々育てて殺す代わりに、ステーキを育てるだけでよくなるのだ。

あなたは今の畜産業が地球環境に与えている影響を考えたことがあるだろうか。

本書によれば、畜産業から生じる温室効果ガスの搬出量は世界の運輸部門全体の搬出量に匹敵するという。

つまり、今地球温暖化の主要な原因とされている化石燃料をどうにかするのと同じくらい、私たちの食習慣を改めることには意味があるということだ。

さらに近年ではそうした動きに拍車がかかっている。それは、中国などの新興国で世帯収入の増加とともに食肉の消費量が急増しているためである。

また、歴史的に見ても、豊かな国では昔から肉が大量に消費され、貧しい国では穀物、豆類、野菜が主な栄養源となってきたように、今後も食肉需要が減らないことは明白である。

肉の美味しさを一度味わった人類が、今の肉食中心の生活を捨て植物中心の生活に転換することはほぼあり得ないだろう。

食生活というのは非常にデリケートな問題なのだ。

だからこそ、こうした畜産業が与える環境への影響については今まで特に検討されることもなく、これといった解決策もないに等しかった。

だが、クリーンミートはこうした問題を解決する非常に有力な候補の1つとなるはずである。

なぜなら、従来の植物由来のフェイクミートなどとは異なり、クリーンミートは正真正銘の動物由来の食肉なのだから。

初公開のときはパテ１枚をつくるのに33万ドルかかっていたが、いますでに、そこから80パーセント近いコスト削減に成功している。もう少しで1キロ65ドルから70ドルという目標値に下げられそうだ

2015年、ポスト博士はあるインタビューで上記のように語った。

人工肉ハンバーガーが振る舞われてから早くも7年。すでに、ハンバーガーのパテに使用される挽肉状の食肉については、市場に出回る食肉と変わらない価格にまでコスト削減に成功している。

しかし、ステーキのように厚みのある食肉の生産にはまだまだ時間がかかるようだ。

厚みのある食肉の場合、内部に栄養分を運ぶ血管が必要となるが、現時点ではそのようなものがないため内部の筋組織が死に絶えてしまっている。

だが、この課題に関しては解決策が示されており、その解決策が3Dプリンディングである。

詳細は本書に譲るが、近い将来確実にステーキのような重厚な食肉についても市場に出回るだろう。

今あなたの目の前に2つのステーキが用意されているとする。

見た目はまったく一緒で、違うのは動物の体内で育ったものか、そうではないかの違いだけ。

さて、あなたはどっちのステーキを選択するだろうか。

本書を読めば答えは明白だ。あなたは人工培養されたステーキを口にするだろう。

なぜならその選択が人類だけでなく地球上の生命を救う選択となることをあなたは知っているからである。

だが、クリーンミートは、細胞農業と呼ばれる壮大な取り組みの一つでしかない。

本書は、そんな多くの野心的な起業家達によるクレイジーで壮大な挑戦の物語である。