『デジタル・ミニマリスト』スマホを賢く利用する哲学

皆さんの1日を思い浮かべて欲しい。

 

スマートフォンを開いては、Twitterでリアルタイムで更新される最新の世の中の動向をチェックし、

Facebookでは、友人一家が投稿した赤ちゃんの写真に「いいね」を押して、

Instagramから届いた、先日呼ばれた友人の結婚式の写真にタグ付けされた自分が写った写真をチェックする。

ついつい用もないのにスマートフォンの画面を覗いては、過ぎていく時間。

私たちはみんなそのような生活を改善したいと思っている。

 

本書が提唱するのは、”デジタル・ミニマリズム”という考えだ。

では、なぜそのような考えが必要なのか。

本書は、強力なテクノロジーを相手にするには、小さな工夫や漠然とした決めごとだけでは不十分であるからと指摘する。

 

必要なのは、自分の根本をなす価値観に基づいた、妥協のない、”テクノロジー利用に関する哲学”だ。どのツールを利用するべきか、どのように使うべきかという問題に明確な答えを提示できる哲学。そして、選んだツール以外のいっさいを無視できるだけの自信を与えてくれること

 

私たちに必要なのは、テクノロジー利用に関する哲学ともいうべき強力な指針だ。

それが”デジタル・ミニマリズム”という考えである。

本書では、その”デジタル・ミニマリズム”とは何かを解説し、1600人ものボランティアが参加した集団実験の結果から築き上げられたその実践方法を紹介する。

 

暇さえあればスマートフォンを覗き見るのは、たしかに、私たちの意思の弱さも一役買っている。

だが、本書によれば、Twitterなどのアプリやウェブサイトの多くは、巧みな”心理的な罠”を利用してユーザーが誘惑に抵抗できないよう設計されているという。

本書では、そのなかでも代表的と思われるものとして”間歇強化”と”承認欲求”を挙げている。

”承認欲求”は皆さんも1度は聞いたことがあるだろう。

私たちはみんな、親しい友人が自分のことを気にかけてくれていることがわかると嬉しい気持ちになる。

Twitterの”いいね”やInstagramの”写真のタグ付機能”は、まさにユーザーのそうした心情を巧みに利用しているようだ。

 

こうしたソーシャルメディアが仕掛ける巧妙な罠から逃れるには、小手先の対処法では上手くいかないことは明白である。

そこで必要なのが、本書が提唱する”デジタル・ミニマリズム”という考えである。

”デジタル・ミニマリズム”は、経済学の法則や心理学的なアプローチから導き出された3つの基本原則から成り立つ。

 

原則1:あればあるほどコストがかかる‥

原則2:最適化が成功の鍵である‥

原則3:自覚的であることが充実感につながる‥

 

詳しい説明は本書に譲るが、重要なのは、原則3の「自覚的であることが充実感につながる」という点である。

これは、単純に言えば、スマートフォンを持たないという選択肢を持つこと自体が、幸福につながるというものだ。

皆さんも、ぜひ近所のカフェなどに行くときに、スマートフォンを家に置いて出かけてみて欲しい。

普段通うカフェにおいても、スマートフォンを持ち歩いていた時と比べて、いつもとは違う発見があることに気づくはずだ。

 

それがなぜ、あなたの幸福につながるかというと、その答えは、集団実験に参加した被験者が代わりに答えてくれる。

 

「(スマートフォンを持たないという判断の)おかげで、自分のことは自分で決めていると自信を持って毎日を過ごせます」

「自分の生活のなかでテクノロジーにどこまでの役割を持たせるか、私がコントロールしているわけですから」

 

デジタル・ツールを自らがコントロールしているという感覚は、それだけで新鮮で気持ちの良いものなのだ。

 

では、肝心の”デジタル・ミニマリズム”の実践する方法はといえば、実にシンプルな方法である。

 

三〇日のリセット期間を定め、かならずしも必要ではないテクノロジーの利用を休止する。

 

これは実践方法の全3ステップのうちの1つ目なので、以降のステップも存在するのだが、要は、30日間普段使っているアプリ等を排除し生活するという根絶治療ということになる。

この30日間の間に、あなたはこれまでデジタル・ツールに当てていた時間を埋める、他の楽しくてやりがいのある活動や行動に目を向けることになる。

 

あなたは、そういったものは皆目検討がつかないと思うかもしれない。

だが、安心して欲しい。本書の後半の180ページほどをそうした問題の解決に当てている。

この後半を読むだけでも、非常に生産的だ。そして、誰でもデジタル・ツールに代わるものは見つかる。

なぜなら、もともとはそういったものを強化するために、デジタル・ツールを利用していたのだから。

 

スマートフォンを代表するように、デジタル・ツールは、ますます便利になり、私たちの生活になくてはならないものになっている。

そういったツールを利用し、満足しているユーザーにとっては、本書が提唱する”デジタル・ミニマリズム”という考えは、そうした流れに逆行しているようにも思えるかもしれない。

 

だが、後からスマートフォンを利用していた時間が、どれだけ自分に有効的だったのかを振り返って欲しい。

 

本書は単なるノウハウ本ではない。

特に、私の年代のようなデジタル・ツールの熱狂的な利用者には、本書は教育哲学ともいうべき必読書となるだろう。

 

デジタル・ミニマリスト: 本当に大切なことに集中する

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