『13歳からのアート思考』仕事や人生で結果が出せないあなたの為に
本書『13歳からのアート思考』とは、美術教師でもある著者による、これまで述べ700人以上もの中高生を相手に実施してきた実際の授業をもとにした体験型の本である。
各章は著者が選んだ6つの偉大な作品のうちから1つを取り上げる形で、実際の授業を受けているような講義スタイルで展開される。
実際に手を動かす「エクササイズ」やこれまで授業を受けてきた参加者による意見や考えもふんだんに登場させることで、ライブ感を存分に味わえる内容となっている。
皆さんは「美術」というものにどのような印象をお持ちだろうか。
「得意な方だった」という人は少数派で、「苦手だった」という印象を持っている方が多いのではないだろうか。
本書のタイトル『13歳からのアート思考』にもある通り、小学校→中学校への転換期、つまり13歳くらいの年齢で美術の人気は急激に悪くなる。
その理由として、本書では以下のように指摘している。
「技術・知識」偏重型の授業スタイルが、中学校以降の「美術」に対する苦手意識の元凶ではないか
たしかに、小学校までは自由に自分自身を表現できていたような気がする。私も美術は好きだった。
しかし中学校の美術の授業といえば、技術という面では、美術部所属の同級生から比べると自分の作品は見窄らしく恥ずかしいだけだったし、知識という面では、美術史について作品名や作者名をひたすら暗記するだけで何の役に立つのだろうといった印象を受けていた。
かの有名なパブロ・ピカソは以下のように述べている。
すべての子どもはアーティストである。問題なのは、どうすれば大人になったときにもアーティストのままでいられるかだ
私たちはこうした美術教育の影響で、誰もが子供の時には持っていたアーティスト心なるものを見失ってしまっているのではないだろうか。
山口周氏著の『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』によれば、現在、欧米エリートの間ではMBA(経営学博士)よりもMFA(美術学博士)を狙うものが増えているという。
アップルをはじめ、多くの成功している企業はすでに自らのビジネスにアート思考を取り入れている。
本書でも、アート思考を直感力や考える力を養うことができる力と捉え、その重要さを説いている。
だが、エリートでもクリエイティブな職についてるわけでもない多くの人にとっては、そうした能力は一部の人間のものであって、自分達には無関係と思っているかもしれない。
しかし、著者は自信を持ってこう断言する。
じっと動かない1枚の絵画を前にしてすら「自分なりの答え」をつくれない人が、激動する複雑な現実世界のなかで、果たしてなにかを生み出したりできるでしょうか?
では、本書の授業を少し覗いてみよう。
あなたもどこかの美術館に行って、アーティストたちの作品を見たことがあるだろう。
ただ、作品を見る時間よりも、解説文に目を向けていた時間の方が長かったという人の方が多いのではないだろうか。
本書ではアートを鑑賞する上での様々な「視点」を教授する。
「視点」といっても、あくまで私たちが自分で考えるためのちょっとした手助けのようなものだ。
例えば、2章の「「リアルさ」ってなんだ」では、以下のような「視点」で考えるように私たちを促している。
ピカソはあなたの弟子で、あなたは師匠だとしましょう。もし弟子のピカソが「師匠、こんな作品を描きました!」といって、この絵を持ってきたとしたら・・・・・・?「リアルかどうか」という視点でこの絵のあら探しをして「ダメ出し」をしてみてください。
ここで鑑賞するピカソの絵は「アビニヨンの娘たち」という5人の娼婦を描いたもので、この絵には私たちが普段目で見ている光景だけではないある光景まで描き出されている。
ピカソがこの絵を描く際に扱ったトリックを暴くには、先ほどのダメ出し鑑賞術でこの絵をよくよく観察してみることが必要である。
本書は、このように一件拍子抜けしてしまいそうな簡単な鑑賞術で私たちを探求の道へと誘ってくれるのだ。
本書では、先述したようにある6つの作品を鑑賞するかたちで話が進んでいく。
どれもアートの歴史に革新をもたらしたとされる作品ということで、読み進めていたのだが、私が勉強不足のせいか知っている作品は先ほどのピカソの作品くらいだった。
それもそのはず、本書で紹介される作品は古典ではなくてどれも20世紀以降に生み出された作品のようだ。
著者によれば、20世紀以降に生まれた作品の方が「アート思考」を育む題材として最適らしい。
なぜそうなのか?それは20世紀に起きたある重大な”事件”が関係しているという。
ネタバレになるので詳しくは本書に譲るが、アート鑑賞は何も小難しいものではなく、自由で楽しいものなのだということを本書では十分に味合わせてくれる内容となっている。